研究概要

鳥取県商工労働部「鳥取県経済再生成長戦略」より

鳥取県の特産品「カニ」。カニ殻の主成分であるキチンをナノファイバーとして抽出することに成功。多くの大学研究室や民間企業と共同研究を行って、キチンナノファイバーには驚くほど多様な機能があることが分かってきました。機能を活かして実用化を進めて、カニ殻の有効利用と鳥取県の産業の活性化に取り組んでいます。

  
 
 

参考資料
鳥取大学工学部紹介、教員ピックアップより
鳥取県商工労働部経済再生成長戦略紹介冊子より
科研費NEWSより

 
 

「蟹取県」とっとり

鳥取県の特産品は二十世紀梨や砂丘らっきょう、大山地鶏などいろいろありますが、中でもカニが有名です。毎年、解禁されると多くの観光客が訪れます。カニの水揚量の全体に占める割合は46.4%(2013年農林水産省調査)にものぼり、解禁の時期には県名を「蟹取県」に変更してアピールしています。鳥取県の西部に位置する境港はゲゲゲの鬼太郎の水木しげるロードが有名ですが、国内有数のカニの水揚げ基地として知られています。そこでは、日本海一帯のズワイガニや赤い宝石「ベニズワイガニ」が集まります。そのため、長期にわたって大量のカニ殻が廃棄物として発生します。

カニ殻由来の新素材「キチンナノファイバー」

カニ殻(左)とカニ殻から抽出したキチン(右)

カニ殻の主成分である「キチン」(チキンではありません)をナノファイバーという極細の繊維で抽出することに成功し、その実用化を進めています。製法はとても簡単で、カニ殻を薬品の入った釜で煮てタンパク質やカルシウムを除きます。なお、甲殻アレルギーの原因物質であるトロポミオシンと呼ばれるタンパク質はカニの身由来であり、殻には含まれておりません。続いて粉砕機で湿式処理すると幅が10ナノメートルの非常に細い繊維が取り出せます。10ナノは髪の毛の太さのおよそ1万分の1のサイズです。例えば1%の濃度のキチンナノファイバー分散液を0.5ミリリットル取り出した時、その中に含まれる繊維の長さは地球一周分に相当します。キチンは昆虫の外皮やキノコにも含まれており、地球上にたくさん存在します。ですが、キチンは水に溶けないため加工がしにくく、使い道がほとんどありませんでした。一方でキチンナノファイバーは水によく分散してジェル状になるので、他の素材と混ぜたり用途に応じていろいろと加工が出来るようになりました。

 

驚くべきカニ殻のパワー

私がキチンナノファイバーという特殊な繊維を取り出すことができたのは、カニがもともとナノファイバーを作ってくれているからです。鋼鉄並みと言われる強いキチンナノファイバーを殻に蓄えて、外敵から身を守っているのです。ですから、キチンナノファイバーをプラスチックに混ぜると、透明性やしなやかさをそのままに、大幅に強度をアップできます。また、熱をかけてもほとんど変形しません。



鳥取大学は規模は小さいですが、学部間の垣根が低く、お互いの得意分野を活かした共同研究がし易い環境にあります。そのおかげで、これまで、ナノファイバーのいろいろな生理機能を明かにしてきました。例えば、キチンナノファイバーを服用すると、腸の炎症が緩和されたり、善玉菌が増殖したり、脂肪やコレステロールを減らせることが明らかになってきました。また、肌にナノファイバーのジェルを薄く塗布すると、表皮で保護膜ができて肌の水分の蒸散を抑えたり、肌の弾力に関わる膠原繊維(コラーゲン)を増やすことができます。
 
さらには、農作物に撒くと免疫機能が高められて病気にかかりにくくなりますし、パンなど小麦製品に配合すると良く膨らんだり、食感を改良することもできます。この様にキチンナノファイバーの機能が次々と見つかり、私自身もその潜在能力の高さに驚いています。これはまさに共同研究のおかげです。今後も多くの研究者にこの新素材に触れてもらい、未知の機能を上手に引き出していくことが重要と考えています。これまで、肌に対する機能を活かしてキチンナノファイバーを配合した敏感肌用化粧品が全国販売されています。また、海の恵みの新素材として皆さんに親しんで使用してもらえるよう、「マリンナノファイバー」という商標を登録しました。今後、化粧品や健康食品など製品化が進んで、「カニ殻が足りなくて困っている」と言われるくらい普及できたら最高です。