「蟹取県」とっとり
カニ殻由来の新素材「キチンナノファイバー」
カニ殻(左)とカニ殻から抽出したキチン(右)
驚くべきカニ殻のパワー
私がキチンナノファイバーという特殊な繊維を取り出すことができたのは、カニがもともとナノファイバーを作ってくれているからです。鋼鉄並みと言われる強いキチンナノファイバーを殻に蓄えて、外敵から身を守っているのです。ですから、キチンナノファイバーをプラスチックに混ぜると、透明性やしなやかさをそのままに、大幅に強度をアップできます。また、熱をかけてもほとんど変形しません。
鳥取大学は規模は小さいですが、学部間の垣根が低く、お互いの得意分野を活かした共同研究がし易い環境にあります。そのおかげで、これまで、ナノファイバーのいろいろな生理機能を明かにしてきました。例えば、キチンナノファイバーを服用すると、腸の炎症が緩和されたり、善玉菌が増殖したり、脂肪やコレステロールを減らせることが明らかになってきました。また、肌にナノファイバーのジェルを薄く塗布すると、表皮で保護膜ができて肌の水分の蒸散を抑えたり、肌の弾力に関わる膠原繊維(コラーゲン)を増やすことができます。
さらには、農作物に撒くと免疫機能が高められて病気にかかりにくくなりますし、パンなど小麦製品に配合すると良く膨らんだり、食感を改良することもできます。この様にキチンナノファイバーの機能が次々と見つかり、私自身もその潜在能力の高さに驚いています。これはまさに共同研究のおかげです。今後も多くの研究者にこの新素材に触れてもらい、未知の機能を上手に引き出していくことが重要と考えています。これまで、肌に対する機能を活かしてキチンナノファイバーを配合した敏感肌用化粧品が全国販売されています。また、海の恵みの新素材として皆さんに親しんで使用してもらえるよう、「マリンナノファイバー」という商標を登録しました。今後、化粧品や健康食品など製品化が進んで、「カニ殻が足りなくて困っている」と言われるくらい普及できたら最高です。